コロナ後の外国人雇用(技能実習と特定技能)について考える

 

はじめに

在留資格「技能実習」(以下、実習)や「特定技能」などの外国人を雇用するに当たって、皆さんはどのようなルートでベトナムの送り出し機関を選びます(ました)か?

1.ベトナムの人材企業(送り出し機関)からの営業
2.日本人からの営業
3.監理団体(組合)からの営業や紹介(選択の機会がないまま、自動的に決まった)
4.日本人の知り合い(同業者や友人・知人)からの紹介
5.所属している日本の機関(業界団体や協会)からの紹介
6.上記のいずれにも頼らず、自分(自社)で探す(した)
7.その他(その他の場合、皆さんからご教示いただければ幸いです。)

 

それでは監理団体や支援機関についてはいかがですか?

1.送り出し機関からの紹介(選択の余地がないまま、自動的に決まった)
2.監理団体(組合)からの営業
3.日本人の知り合い(同業者や友人・知人)からの紹介
4.所属している日本の機関(業界団体や協会)からの紹介
5.上記のいずれにも頼らず、自分(自社)で探す(した)
6.その他

 

これは読者の方々にとって、今後の雇用計画を左右する可能性のある、非常に重要な要因です。

最初に、本ブログは「ほとんどの送り出し機関や監理団体、受け入れ企業は法律やルールを遵守し、的確に運営されている」と言う事を前提にしています。しかし、一部の機関/団体/企業の中には不適格な運営が行われている所があるのも事実です。今回のブログはそのような「一部の関係者の不法行為によって、皆さんが知らないうちにトラブルに巻き込まれるリスクを極力回避し、今後の雇用計画に役立てていただく事を目的にしている」と言う事をお知らせしておきます。

 

現在のベトナムにおける技能実習制度の認識

最近ベトナムでよく目にするようになったのが、送り出し機関と技能実習制度に関するニュースです。コロナ禍で、既に採用が決定している実習生は日本に行けない一方で、新規の面接もほとんど無いと言う状況が続いているため、多くの送り出し機関では経営が苦しくなり、倒産する所が出始めたため、訪日を待っている実習生達に連鎖的に被害が及び、問題化しているからです。これは当然のことで、弊社でも兼ね兼ね言及して来た通りです。

 

一例にとして、以下にリンクを貼ります。
日頃日本の状況については目にする機会が多いでしょうから、読者の皆様にはベトナムでは技能実習制度がどのように認識されているかを知っていただきたくて、ベトナム国内で放送された番組をそのままシェアいたしました。日本で言えばNHK的な位置付けの放送局で、ベトナムのVTVと言う国営放送のニュースです。原語のままですが、映像から雰囲気だけでも感じ取っていただける事と思います。


VTVニュース

 

技能実習制度の変化

コロナ以前の送り出し機関

以下は、放送内容に私が補足したものです。
ベトナムでは送出し機関やブローカーがメディアに実習生募集の広告を出すのに高いお金は要りません。しかし実習希望者がその広告を見て応募すると、応募者は実習生として就労できるまでに約100~150万円の費用を払うことになります。

ところが最近、このような多額の費用を払ったからと言って外国で就労できない事例が急増しています。ベトナムの法律では上限3,600ドルと決まっているのに、なぜこのような事が起こるのでしょうか?

 

それは、元々正規のライセンスを持った送り出し機関に加えて、正規送り出し機関のライセンスを借用して営業活動を行う非正規業者や、そのような業者と組んだ個人ブローカーが暗躍しているためです。このような非正規業者は、海外に技能実習生を送り込む事が出来れば一人につきいくらで稼げるため、実際とは違ういわゆる「おいしい話」をして技能実習の応募者を勧誘し、日本企業との面接に参加させるのです。

そして自分が送り込んだ候補者を合格させようと頑張るわけです。その結果、自分が送り込んだ人材が合格しさえすれば、正規費用に加えて、ライセンスを保有する送り出し機関に支払う「ライセンス使用料」や、彼らがさらに彼らの先にいるブローカーに支払う手数料、果ては自分の手数料までを加算し、合格者に請求するのです。

 

しかし話はこれだけで終わりません。実際には日本企業が面接の為に訪越する時の費用や宿泊代、飲食費や接待費、さらには日本側関係者に内々で支払われる「マージン」もここで徴収される手数料に含まれているわけです。

もちろんほとんどの読者は、「うちは自費で訪越している」「ベトナム側には負担させていない」「接待は受けていない」でしょうが、合格者が支払う費用明細の各項目をだれが負担しているのか、また、それが実際に明細の通りに使われたのかどうかなど知る由もないのです。つまり、合格者は紹介者の言う「言い値」を負担するしかないのです。結果として合格者は、法定上限をかなり超えた高額な費用を支払う事になる訳です。

ブローカーにとってさらに「おいしい」のは、費用を日本企業が負担してくれれば、その分彼らの儲けが二重に増えるので、このような日本企業や監理団体が来越してくれる事は却って好都合で、それこそまさに「おいしいお客様」となっている訳ですから、大切にされるのは当然のことです。

 

数年前からコロナ禍の直前まで、このような仕組みでベトナムでは「新設送り出し機関」が激増しました。ほんの少し送り出し機関で働いて「仕組み」を知れば、「これなら自分でやった方が儲かる」となるのです。

 

コロナ禍におけるベトナムスキームの変化

このニュースが伝えるように、ベトナム人にとっては「多額の借金」「虚偽の雇用条件」「経歴詐称」などが引き金になって「逃亡や失踪」「犯罪」へと繋がる一方で、日本側は彼らが支払った費用から「裏紹介料」「裏契約書」「訪越時の飲食・接待」などを享受して来ました。

しかし、これを疑問に思ったり、薄々勘付いていても明確化しない、知っていてもそこには触れないようにして来たと言う関係者が多いのが現状です。もちろん殆ど全ての送り出し機関や監理団体は正しく運営されていますが、そうでない所が多いのもまた事実です。技能実習制度は、日越双方の「暗黙の了解」、言わば「ベトナム・スキーム」があったからここまで拡大して来たという一面があるのです。

 

実は、この「ベトナム・スキーム」こそ、このような問題が起こる要因の一つとなっているのです。それでもコロナ禍以前は問題が表面化する事は殆どありませんでしたが、コロナ禍になって状況が大きく変わって来ました。

ベトナムでは、返金されるはずのお金が返金されない、代金を支払った送り出し機関や紹介者と連絡が取れなくなった、また、送り出し機関が倒産した、一方日本では、多くの外国人が帰国困難となり、生活困難に陥り、盗難や金銭トラブル、不法就労など、ベトナム人の犯罪が急増しています。その根本的な背景にはこの「ベトナム・スキーム」があり、それがコロナ禍で一気に噴き出して来たというわけです。

 

このような状況については、日越両国の行政当局も注視しています。

現在は水面下ではありますが、OTIT(外国人技能実習機構・日本)とDOLAB(海外労働管理局・ベトナム)が連携して日越双方で内定を進めているという情報もあります。

 

現にハノイでは11月23日、DOLAB主催で送り出し機関を対象にした「技能実習と特定技能に関する正規費用遵守に関する会合」が開かれました。ここではDOLABが主催と言う所が重要です。

DOLABは政府機関として、実習生の送り出しに関して正規の代金を徴収し、「認定状」「推薦状」などを発行すると言う役割を担っています。しかし一部の現場関係者は「ベトナム・スキーム」の一部に組み込まれており、送り出し機関と「良好な関係」を築く事で双方が恩恵に預かって来たのです。この会合を機に多くの関係者が「今回はDOLABが本気になった」と見ているのです。

 

コロナ後を見据えた新たな技能実習制度

コロナ禍で日越間の往来が厳しく制限されている上、新たな面接もほぼ無いため、人やお金が動かないでいる状況が続いているのを良い機会に、日越両国が協力して、多くの問題や課題を含有する現在の技能実習制度を、抜本的に見直す動きが加速する事が予想されます。日越両国の政府は、2019年の「新たな特定技能制度」に加えて、コロナ後を見据えて「新たな技能実習制度」を構築しようと言う訳です。

 

日本政府の主旨は、「各在留資格の基準を再確認し、外国人の適切な在留を推進する事」です。就労可能な在留資格については、特に「特定技能」に集約して行きたいと言う姿勢が強く感じられます。

ベトナムでは徴収代金の上限遵守、収賄に依存する体質(本人も知らないうちに行われている場合が多い)、経歴詐称などによる送出し機関に対する調査、日本では監理団体の監理状況と資金フローに関する調査、受け入れ機関には在留資格と実際に就労している職種の整合性や支払賃金の正当性、居住環境など雇用契約書に定められた雇用条件が遵守されているかどうかが主な調査対象になります。

違反があれば内容によって、行政指導、最大5年間の外国人受け入れ禁止、ライセンスの有期停止や最悪の場合取消しなどの厳しい処罰を受ける事になります。民事だけでなく、場合によっては刑事罰を受ける可能性もあります。特定技能や他の在留資格も同様です。

 

日越双方の関係者は、今のうちに契約内容や現場運営の実態を再確認する良い機会として、適切な運営体制の再構築や契約内容の修正、契約自体の巻き直しなどをしておく必要があるでしょう。

また、「ベトナム人たちは数ある諸外国の中から日本を選んでくれている」と言う事も理解しておく必要があります。読者の皆さんは普段あまり触れる機会が無いと思いますが、日本と並ぶベトナム人の主な就労先である韓国や台湾などの近年の雇用条件を見ると、日本と遜色ないところまで来ています。

また、日本と同様に雇用者数の減少と賃金上昇によって、外国人の就労が必須となっています。このような国々では国家レベルで外国人が就労しやすい条件や環境を急速に整備しており、ベトナム人にとって魅力的な対象国となって来ているのです。

私たちは、今後もベトナム人が今までのように「日本を選んでくれるためにはどうしたら良いか」と言う事も併せて考える必要があるのです。

 

特定技能制度への移行

移行が進む時期の目安

上記の経緯から考察するに、私は今後、就労で来日する外国人の在留資格は、ある時期まで、多くの課題を抱える技能実習から、新しく生まれた特定技能への移行が進むと考えています。ある時期とは以下の三つの条件が満たされる時です。

 

一つは言うまでもなくコロナ禍の収束です。

 

二つ目は在留資格「特定技能」の新規取得者数が在留資格「技能実習」の新規取得者と同等、もしくは近接して来て、当局が「特定技能制度が認知された」と判断した時です。

因みに法務省・出入国在留管理庁(以下「入管」)発表の「外国人在留統計(2020年6月時点)」によると、技能実習が369,400人なのに対し、特定技能はわずか5,950人となっています。技能実習の数が特定技能5年後の目標値である350,000人とほぼ同じなのがその目安となります。

在留資格「特定技能」のスタート当初、1年後の2020年3月末の目標が40,000人でしたから、現在の5,950人と言う数字は、コロナ禍があるとは言え極めて少なく、特定技能制度が順調に機能しているとは言えません。

 

そして三つめは技能実習制度が真に正しく機能する体制が整った時です。出入国在留管理庁およびOTITは、現在までに詳細に渡る調査を実施し、現在の技能実習制度が内包する多くの問題を既に掌握しています。

また上記で述べたように、日本政府としては特定技能を拡大しなければならない理由があります。

特定技能制度を機能させ、目標人数を達成するためには、先ず現在の技能実習制度を抜本的に見直し、再構築する必要があるのです。日越間で二国間協定が未だに完結できていない理由の根幹はここにあり、今後もこのような状況が続く事は日越両国にとって大きな問題です。

 

そのためにも、まず現在の送り出し機関、監理団体、受け入れ企業の現場の実態や管理体制を厳格に調査して、適格/不適格に区分けし、適格団体・機関・企業を通してのみ、在留資格を与えるようにしたい訳です。

入管としてはこのようなステップを経て在留資格「留学」「技能実習」「特定技能」を明確に区分けし、今後の新たな在留外国人労働者の受け入れ態勢を構築していくものと思われます。

 

技能実習制度と特定技能制度の本来の役割が機能するために

ブログの最初に戻ります。

実は、あなたやあなたが所属する組織が契約先を選ぶ(んだ)きっかけは、どんなことでも良いのです。重要なのは、あなたが契約する前に「契約先である送り出し機関や監理団体、受け入れ企業などを詳しく確認し、納得してから選んだかどうか」と言う事です。

皆さんがいくら正しい運営をしていても、契約先の不法行為によって「知らないうちにトラブル巻き込まれてしまった」と言う事態に陥る事は絶対に避けなければなりません。これを機に外国人受け入れのプラットフォームを再考し、本ブログで記述した各項目を、対象者や契約先に確認してみてはいかがですか?

その結果、明快で納得の行く回答が得られれば安心に繋がりますし、回答が不明瞭だったり、曖昧な点がある、また問題が見つかったら契約先として適切なのかどうかを再考し、場合によっては変更する必要が出てくるかも知れません。

 

このような環境が整って、当初政府が想定した技能実習と特定技能の本来の役割が初めて機能し始めるのです。政府はこれを目指しているのです。私たちは、上記のような背景と経緯を前提にコロナ後の外国人労働市場の動向予測を考慮し、外国人採用計画を立てておく必要があります。参考にしていただければ幸いです。

 

今回はコロナ後の技能実習と特定技能の動向予測について書いてみました。また、本ブログの内容やベトナム関係の事でご質問や相談などございましたら、どうぞお気軽にご連絡ください。

 

執筆者紹介

櫻井 良光(さくらい よしみつ)
VJVC LLC 代表執行役員

2006年よりベトナムに特化し、主に日本企業を対象にアドバイザリー業務を開始、
対応範囲は、現地法人設立、合弁会社設立、提携企業とのマッチング、M&A、資本参加、業務提携など多岐に渡る。
上記業務との関連性から人材分野に展開、現在はベトナムの事業法人、日本語学校や送出し機関などのアドバイザーも務めており、日本人が判り難いベトナムの法務や商慣習、実情などに精通。
独特の視点で日本の中小企業を中心に、上場企業から個人企業まで幅広く実践的にサポートする。

VJBC LLC:sakurai@vjbcllc.com


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