「特定技能」と「技能実習」の在留資格の違いとは
2019年4月1日に施行された入管法の改正により、新たな在留資格として「特定技能」が創設されました。ついに単純労働の解禁か?と話題にもなり、人手不足の解消法として、外国人の受入れを検討されている方もいらっしゃるかと思います。今回は、“これまでの在留資格との違い”についてまとめたいと思います。
在留資格とは
在留資格とは、外国人が日本に適法に滞在するための資格(法的な地位)です。原則として、その在留資格で許容された活動以外には従事できません(入管法19条1項)。就労活動に関して、大きく分けると次の3つに分類できます。
- ①就労活動が不可の外国人(家族滞在等 ※資格外活動の許可を得ている場合を除く)
- ②就労活動が一定の範囲に限られる外国人(許可を受けた範囲内での就労活動)
- ③就労活動に制限がない外国人(永住者等 いわゆる身分系)
※今般新たに創設された「特定技能」は、②に該当します。
従来からあった在留資格「技術・人文知識・国際業務」等や「技能実習」ついて、改めて確認しておきましょう。
上記の通り、これまでは非専門である「技能実習」を除き、「一定以上」の専門的技術等を有している者のみに対して就労を認めてきました。
しかし、新たに創設された特定技能では、「相当程度」の知識と経験を有する業務への就労を認めました。つまり、要件を少し緩和することで、外国人の就労チャンスを広げた形とした訳です。
技能実習と特定技能の在留資格の違いについて
「技能実習」と、「特定技能」の主な違いについては、以下の通りです。
技能実習制度の目的は、技術移転による国際協力、即ち「国際貢献」です。一方、特定技能制度は、「労働力」(日本の労働力人口の低下対策)である為、様々な観点で相違が生じてきます。
監理・支援の責任の所在が受入れ企業へ
技能実習生の場合、「監理団体」にありましたが、特定技能1号の場合、「特定技能所属機関(いわゆる外国人の受入れ企業等)または委託された登録支援機関※」となっています。
※入管法に基づき、特定技能1号としての受入れに関する支援を特定技能所属機関の代わりに行う機関のことをいいます。
日本語・技能水準を設定
技能実習生の場合、介護分野を除き、試験制度は導入されていませんでした。
来日後の1~2ヶ月程度の研修後、実習開始が基本的な流れでしたので、日本語がしっかり話せないまま来日することも珍しくなく、コミュニケーションの面で支障となるケースも多々ありました。
今般新設された特定技能では、日本語能力試験も課すことになり、初めて外国人を雇用する企業側にとっては、受入れやすくなったように思われます。
転職を可能にした
技能実習では認められていなかった「転職」制度ですが、特定技能では同業種・業務であれば可能になり、実質、転職を解禁したものと考えられます。
対象職種の新設
対象となる職種が限定されているという点は同様ですが、対象職種には差異があります。「宿泊業、外食業」は、技能実習では認められていなかった為、「特定技能1号」での新設職種となります。
原則派遣はNG。人材紹介が新たなビジネスチャンス!?
特定技能で認められている雇用形態は、技能実習と同様、原則「直接雇用」のみです。
つまり派遣労働者として働くことを前提にした雇用はNGです。
(例外として、農業・漁業の2分野のみ認められています。)
但し、人材紹介は認められています。
それでは、雇用契約の斡旋方法について確認しておきましょう。
これまでの技能実習では、送出し機関と監理団体を介した雇用が原則でした。
しかし、特定技能1号の場合、特定技能所属機関(受入れ企業)が直接、海外で採用活動を行い、又は国内外の斡旋機関(いわゆる職業紹介事業者)を通じて採用することが可能です。
つまり、民間企業に、新たなビジネスチャンスの道が開かれたことになります。
その為、「職業紹介」に関心が集まっているものと思われます。
ただし、特定技能の在留資格に関して職業紹介を行う場合は、職業紹介事業の許可が必要です。
※登録支援機関の認定を受けていても、職業紹介を行う場合には、職業紹介事業の許可が必要ですのでご留意ください。
厚生労働省より、「特定技能外国人材の受入れに関する留意点(2019年4月1日~)」と題したリーフレットが出ております。下記をご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/0020190401.pdf
是非一度、お目通し頂ければと存じます。
まとめ
最近では、外国人雇用を視野に入れている企業様から、どちらの制度を利用すれば良いかといったご相談を頂くこともあります。
それぞれの制度に、メリット・デメリットがありますので、相違点等をよく確認した上で、業種・ニーズ・今後の展望に沿った雇用を検討していく事が得策です。
賛否両論ありますが、個人的見解としては、日本の現状とニーズに併せて新設された「特定技能1号」での雇用が徐々に増えてくるのはでないかと予想しています。
ただし、前述のとおり、転職が可能です。せっかく採用・育成した人材が、同業他社へ転職してしまうことがないよう、同時に労働環境の整備についても見直してみましょう。
執筆者紹介
棚橋 朋香 社会保険労務士法人ザイムパートナーズ
金融機関にて預金・融資業務全般を従事後、社労士業界に身を置く。
財務・労務と多様な視点で企業様のお力になりたいという思いをきっかけに、社会保険労務士資格を取得し、登録。
現在は労働者派遣事業許可申請支援、給与計算、労務手続、労務相談など多岐にわたる社会保険労務士業務に従事。
社会保険労務士法人ザイムパートナーズ