介護分野での外国人雇用が可能な在留資格について解説します。
介護は、日本の少子高齢化もあり、日本で最も人手不足が深刻とされている分野です。政府も外国人材の活用に最も注力している分野であり、外国人を雇用するための在留資格が主に「技能実習」「特定技能1号」「介護」「特定活動(EPA)」の4つ設けられています。
今回は介護分野で外国人の雇用を検討している企業向けに、今後さらにニーズが高まることが予想される「技能実習」と「特定技能1号」を中心に解説をします。
「技能実習」での受入れ状況
介護職種は2017年11月に技能実習が可能な職種として新たに認められました。
そのため、技能実習の中でも比較的新しい職種のひとつです。
技能実習を管轄している外国人技能実習機構の発表では2020年度に介護職種での技能実習の許可を受けたのは12,068名で技能実習生全体の4.7%を占めています。その内の人数が多い国籍順にベトナム人が5,142名、インドネシア人が2,072名、中国人が1,079名です。
受入れ要件
介護職種では技能実習の他の職種にはない下記のような固有の受入れ要件があります。
これらの要件については技能実習制度本体の要件に加えて満たす必要があるため、他の職種と比べても介護職種での外国人受入れの難易度が高いことが分かります。
出典:厚生労働省 技能実習「介護」における固有要件について(技能実習「介護」における固有要件につい)
「特定技能1号」での受入れ状況
2021年3月末時点、介護分野にて特定技能1号の在留資格を取得して日本で就労している外国人は1,705名となっており、特定技能1号外国人全体の7.6%を占めています。その内の人数が多い国籍順にベトナム人が870名、インドネシア人が280名、フィリピン人が184名で技能実習生と比べると人数の構成比が異なります。
ベトナム、インドネシア、フィリピンの3ヵ国については後ほど紹介する特定活動(EPA)の在留資格が認められている3ヵ国であり、特定技能の技能試験・日本語試験が免除される要件のひとつに「EPA介護福祉士候補者としての在留期間満了(4年間) 」とあることからも人数が多い理由のひとつであると言えます。
受入れ要件
介護分野にて外国人を受入れするためには特定技能の在留資格を取得するための技能試験・日本語試験に合格する方法とその他にも3つの方法があります。
- 特定技能の技能試験・日本語試験に合格
〇技能試験
介護分野の技能試験は介護技能評価試験という名称で国内外にて頻繁に実施されており、国内の他にフィリピン、カンボジア、ネパール、インドネシア、モンゴル、ミャンマー、タイの7か国にて実施されています。
介護技能評価試験は開催された国や開催月によっても合格率にばらつきがありますが、平均で約60%程度です。
〇日本語試験
介護分野の日本語試験は他の特定技能分野でも共通の①国際交流基金日本語基礎テスト②日本語能力試験N4に加えて➂介護日本語評価試験があります。
介護日本語評価試験の結果をみると、国内外で実施されたほとんどの試験で合格率が80%以上です。
引用 : 厚労省 令和2年度介護技能評価試験・介護日本語評価試験実施状況報告書
- 介護福祉士養成施設を修了
留学生として介護福祉士養成施設を修了すれば特定技能1号の在留資格へ移行して就労を継続できます。
- EPA介護福祉士候補者としての在留期間満了(4年間)
介護福祉候補生としての在留期間中に介護福祉士の資格を取得できなかった場合でも特定技能1号へ移行することが可能なため、新たに5年間、特定技能1号の在留資格で就労を継続することができます。
- 介護分野の技能実習2号を修了
技能実習を2年10カ月以上修了していれば特定技能1号に移行して就労を継続できます。
在留資格「介護」での受入れ状況
「介護」の在留資格は2017年6月1日より申請の受付が開始され、2020年度末時点で介護の在留資格を取得して日本で就労している外国人は1,714名で、日本にいる外国人のわずか0.1%を占めるにとどまっています。
受入れ要件
介護の在留資格を取得するためには介護福祉士の資格を取得する必要があるため、4つある介護系の在留資格の中でも最も取得難易度が高い在留資格である代わりに、家族帯同が認められており、在留資格の更新期間も無制限です。
また、現在は特例措置として2017年~2022年3月末までの介護福祉士養成施設の卒業生は、介護福祉士の国家資格に合格できなくても5年間の有効期限で介護福祉士として登録することができます。この有効期限付きの介護福祉士資格でも介護の在留資格の申請要件を満たすことができ、その期間中に下記①又は②の要件を満たした場合には、引き続き介護福祉士資格を保持することができます。
➀卒業後5年以内に介護福祉士国家試験に合格する
②卒業後5年間継続して介護の実務に従事する
介護福祉士国家試験の受験は日本語のみのため、外国人にとっては難易度が非常に高い試験ですが、5年以内に合格できない場合でも救済措置として②の要件が定められているため、引き続き介護福祉士資格を保持することができます。
「特定活動(EPA)」での受入れ状況
特定活動EPAの在留資格は日本とインドネシア、フィリピン、ベトナムとの間で締結された経済連携協定(EPA)に基づいて運用されている制度です。2019年度では761名がこの在留資格で新たに入国しており、その内の人数が多い国籍順にインドネシア人が300名、フィリピン人が285名、ベトナム人が176名となります。
また、インドネシアとは2008年から、フィリピンとは2001年から、ベトナムとは2014年から受入れを開始しており、公益社団法人国際厚生事業団(JICWELS)が候補者のあっせんなどの業務を行う日本唯一の受入れ調整機関です。
受入れ要件
特定活動EPAの在留資格を取得するための要件は3ヵ国それぞれで異なります。
そのため、採用する外国人の国籍によって技術や日本語能力にも違いがあることが多いです。
出典:公益社団法人 国際厚生事業団 EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士候補者受入れパンフレット
介護分野での「技能実習」「特定技能1号」活用のメリット・デメリット
既に解説した介護分野で外国人を雇用することができる在留資格について4つの在留資格の中でも、新しい「技能実習」と「特定技能1号」を活用するメリット・デメリットを解説します。
技能実習を活用するメリット
雇用の安定
最大のメリットは転職ができないため、雇用の安定が確保されることです。あくまでも技能実習であるため、受入れ施設の経営状況の悪化など特段の理由が無い場合は基本的に同じ施設にて技能実習をすることになります。
特定技能1号試験の免除
特定技能1号へ移行する際に技能試験と日本語試験が免除されます。
特定技能1号の在留資格を取得する際には技能試験と複数ある日本語試験のひとつに合格するなどの要件がありますが、それらが無条件で免除されます。
技能実習を2年10カ月以上修了していれば特定技能1号に移行する要件を満たすことになります。
技能実習を活用するデメリット
費用や負担が大きい
日本での就労未経験者であることがほとんどのため、最低賃金で採用する場合が多いが、その他に入国後の義務的な日本語学習のための費用や技能検定試験受験費用、出入国の際の渡航費用などさまざまな費用が発生することに加えて、技能実習生であるため、技能実習計画に沿った就労内容である必要があり、その運用のための負担も大きいです。
新設要件がある
介護職種の技能実習生を受入れするためには受入れをする事業所が設立後3年間を経過している必要があります。新設要件があるのは介護分野の在留資格の中でも技能実習だけです。
特定技能1号を活用するメリット
受入れ要件が簡単
特定技能1号を受入れするためには既に解説した4つの方法があり、技能実習2号の修了者は無条件で特定技能1号への移行が可能なことや特定技能の在留資格を取得するための試験についても比較的合格率が高いため、受入れ要件を満たすことは他の在留資格と比べても簡単です。
受入れ後の運用が簡単
介護分野で就労している外国人全員が目指しているのは制約の少なく、在留資格の無期限の期間更新も可能な「介護」の在留資格ですが、特定活動(EPA)や技能実習の場合は運用する上で多くの制約や煩雑な制度運用上の報告書などがあります。一方で特定技能1号について、基本的には3カ月に1度の定期報告書の提出のみが義務であるため、受入れ後の運用が簡単といえます。
特定技能1号を活用するデメリット
在留資格申請手続きが煩雑
特定技能1号が施行されたのは2019年4月のため、未だに申請書類なども頻繁に更新されており、特定技能1号を申請する外国人の国籍によってもそれぞれの政府に対して行う必要のある手続きがあるなど申請手続きが煩雑です。
また、受入れ企業も特定技能協議会へ加入する必要があり、受入れ後は定期で協議会が受入れ事業所を巡回訪問します。
まとめ
今回は介護分野で外国人を雇用する際に活用できる在留資格4つを解説しました。
介護分野で就労する外国人の最終的な目標は介護福祉士の資格を取得して介護の在留資格を取得することであるため、外国人本人の努力にも拠りますが、最短ルートで取得できるように受入れ側も在留資格について知ることが必要です。
新設された特定技能1号の在留資格でも政府が2019年4月からの5年間で60,000名の外国人を受入れすることを目標として掲げていたことからも分かるように介護分野は外国人の活用を最も推進されている分野でもあります。
今後、さらに外国人の雇用が必要になる介護分野で、外国人と受入れ施設の双方が最大限のメリットを享受できる在留資格を検討して下さい。