外国人労働者の変化と傾向

コロナ後の外国人

このブログを読んでいるのは、外国人労働者(技術・人文知識・国際業務/特定技能/技能実習生など)や留学生に関係する仕事をしているか、興味をお持ちの方なので、今最大の関心事は「彼らはいつ来日できるのか?」「具体的な方法は?」ということだろう。

しかし、この話になると状況や条件が日々変わるので、ここで記述する事は控えておくことにする。
今日は「コロナ後の外国人」(私はベトナムで仕事をしているので、ベトナム)の近況について私見を述べたいと思う。

※最新情報につきましては、皆様で随時確認する事をお勧めします。または、弊社までどうぞお気軽にご連絡下さい。

1.ベトナム人の犯罪が急増しているのは何故か?

いったい彼らに何が起こっているのか?

最近ベトナム人の犯罪が毎日のようにメディアを賑わせているが、果たしてそれは、日本企業のベトナム人需要の増加に伴い、良質のベトナム人だけでは需要を満たせなくなり、ベトナム側から紹介される人材の質が低下して来たからなのか?

答えは否である。

最大の理由はもちろんコロナ禍である。在留期限が切れたにも関わらず、母国に帰国できない状況に起因するところが大きい。特定活動ビザに切り替えて何とか合法的に滞在出来てはいるのだけれど、「就労不可」であったり、たとえ「就労可」であっても、就業先が見つからない外国人が日々増加していることに起因しているのである。

我々は日本人なので、つい日本人目線で考えてしまうのだが、ベトナム人目線で考えるとどうなるだろう?
これは外国にいる自分がコロナ禍で帰国できず、収入が無いまま外国に滞在しなければいけない場合を考えればわかりやすい。帰国を許されず、仕事もできないまま、現金が尽きて、カードの限度額も無くなり、もちろん銀行でローンを組むこともできない。元々少ない現地の知人から借りることもままならない状況で、外国に滞在し続けなければならないのだ。

考えるのは「いつまで続くのか?」「いつになったら母国に帰れるのか?」「何とかして仕事ができないか?」「どこに住む?」「何を食べる?」さんざん考えた揚げ句、どうにもならず知り合いの家に頼み込んで居候。肩身の狭い思いで食べるものもままならず、生きるために止むを得ず蛙やネズミや鳩を取ったりしなければならなくなってしまった。

ところが寒くなってくると、そういう訳にも行かなくなり、悪い事とは知りながら、飼育されている豚や鶏に手を出してしまったのだ。彼らは周りにも自分たちと同じように生活困窮外国人が沢山いるのを知っているから、これは商売になると考えるのはごく自然な流れ、と言うのが今回の真相であろう。

犯罪の裏にある背景とは

ここで彼らが認識しなければならないのは、ここまでで少なくとも3つの違法行為を犯していると言うことだ。

1.刑法(窃盗罪)、2.屠畜場法(無許可屠殺および解体)、3.食品衛生法(無届け食肉販売)、そして4.出入国管理及び難民認定法(違法就労)である。ところが、日越双方で罪に問われるのは1と4のみで、2と3は不問なのである。

1は確信犯だが、1以外の法律については彼らは違法行為を犯した意識は皆無な筈だ。2については、ベトナムでは食するために屠殺・解体・販売する事は自由なので、最初は「コロナでこんな状況なのだから、少しくらいならわからないだろう。許してくれるだろう」程度の軽い気持ちであっただろう。それをフェイスブックやTwitterなどでアップすると、それを見たほかのベトナム人たちから「売っているのか?」「欲しい」「買いたい」などのメッセージが送られてくる。そこで「商売になる」と考えた彼らが仲間を集めて実行した、と言うのが真相だ。

技能実習生の場合、たとえ実習期間の修了後であっても、彼らが日本に滞在する限り、彼らが帰国できるまで監理責任は監理団体に帰属する。しかし、コロナ禍で多くの監理団体の運営が厳しくなっており、外国人の彼らが弱い立場にあるのを良い事に、多くの実習修了者が放置されているのが実情だ。

断っておくが、私はベトナム人の肩を持つ積りは更々ない。コロナ禍がもたらした状況と言えば確かにそうなのだが、違法行為は違法行為である事に変わりはなく、これは犯罪である。日本の法制度の下で情状酌量の余地はない。しかし、このような背景がある事がメディアで報じられる事はほとんどなく、「ベトナム人の犯罪」と言う一面だけに焦点が当てられているので、少なくともこのブログの読者には実情を知っておいてもらいたいと思って記述した 。

2.技能実習制度と特定技能制度

技能実習制度と特定技能制度の違い

そもそも技能実習制度と特定技能制度は何のためにあるのか?
「人手不足の解消の為に外国人を雇用する制度」だと思っている方が非常に多いのだが、そこが勘違いである。準拠法「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」によれば、本来の目的は「(日本企業が)外国人を受け入れ、働きながら習得した技術や知識を母国の発展に活かしてもらう」ための物であって「人手不足解消のため」ではない。

一方、特定技能は「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」によると、「人手不足の産業分野での即戦力たる外国人労働者の受入れ」を可能にする制度となっている。まず日本企業はこの違いを押さえなければならない。

技能実習と特定技能は別物なのだ。

技能実習制度は日本企業が持つ技術を外国人に習得させ、母国の発展に貢献するための物なので、人手不足とは関係がない。日本企業は「技術を教えてあげる」側なので、最低賃金さえ守れば日本人より賃金は低くても良い。ベトナム人にとって受け入れ企業は、技術を教えてもらう学校のような位置付けだ。

しかし、特定技能制度の場合は定義が「即戦力たる外国人労働者」なので、賃金は「日本人と同等かそれ以上」となる。もちろん昇給も賞与も含めて雇用条件は「日本人と同等かそれ以上」であることが必要だ。ところが多くの受け入れ企業は、いまだに「どちらも同じ」位にしか思っていないので、技能実習も特定技能も最低賃金で雇用できると思っている。

だが、これはあくまでも日本側の考えでしかない。外国人労働者が簡単に来ると思っている間に、外国人の意識は大きく変化しているのである。技能実習と特定技能の違いなら、彼らの方がよほどよく知っている。

ベトナム人からみた日本のイメージの変化

これまでは、日本に対するイメージや、技能実習を終えて帰国した知人が家を建てたり、自分で事業を起こして成功する例を見て「とにかく日本に行きたい」人たちが技能実習生として来日していた。しかし、近年のフェイスブックを初めとする様々なSNSの普及に伴って、ベトナムにいても、日本で就労する先輩ベトナム人達からリアルな日本での生活が容易にわかるようになり、日本に対するイメージが大きく変化したのだ。彼らが不満を持っている主な項目は以下のような事である。

① 雇用条件・雇用契約書と実際の就労条件が異なる。
② 日本人との就労条件や扱いの違いがある。
③ 自分たちに無関心で、放置され、十分なサポートが受けられていない。

実際は、彼らの不満の殆どが①に起因する。受け入れ企業に悪意が無くても、彼らは雇用条件に非常にシビアである。契約条件と実際が少しでも違うと直ぐに疑問をぶつけてくる。日本人が就労する場合、雇用条件にこだわる人はまだまだ少なく、条件を精読する人などほぼ皆無であろう。そもそもその存在すら知らないと言う人も多い。しかしベトナム人の場合は違うのだ。かれらにとって雇用条件は企業選びの最重要条件で、契約時に受けた説明が就労の全てであるといっても過言ではない。

イメージしやすい例を挙げるとしたら、プロスポーツ選手の契約だろう。基本年棒がいくら、オプション条項がどうなっているか、違約条件の発生事由、有事の際の対応や、契約解除時の理由がどちらに起因するかによる処遇の違いなど、詳細に至るまで取り決められている。
また、契約時の説明言語も重要である。日本語のみで説明し署名させるなどもってのほかだ。そもそも通訳・翻訳者が正確に理解し説明しているのか?的確な人材が説明しているのか?相手は正確に理解し、納得して署名したのか?などを受け入れ企業は正確に把握しておく必要がある。

このような事を適切に実施し、常に正確に記録しておく事が、後になってトラブルが発生した場合に受け入れ企業を守る根拠として必須なのだ。これは監理団体についても同様である。

3.日本の外国人労働者受け入れ制度の盲点

ベトナム人の本音

このブログの読者はおそらく日本人なので、日本に居住しているベトナム人の本音を聞く機会は先ず無いだろう。彼らは普通、日本人には本音を話さない。しかしありがたい事に仕事柄、私の所にはベトナム人から相談が来る。特にコロナ禍になってからは毎日来る。相談だからもちろん本音を話すし、こっちも本音を聞かないと何も解決できないから、彼らが置かれている実情を聞く。

もちろん彼らの言う事全てが事実だと思ってはいないが、少なくとも彼らが日本(人/企業)に対して好感を持っているかどうかぐらいは判る。以前は「日本で仕事ができるなら、ベトナムより稼げるからどんな仕事でも良い」だったが、今は違う。
以前の「応募が殺到し企業が面接をして彼らを選ぶ時代」から、今や「彼らがより良い仕事、より良い企業を選ぶ」ようになったのだ。日本企業は先ず彼らに選んでもらわなければならなくなった。弊社でも面接で合格したにもかかわらず、内定を辞退するベトナム人が出てくるようになった。このような状況が続くなら、「募集すれば来てくれる」状況がいつまでも続かない事を理解しておく必要がある。

ベトナム人の望む募集要件

もともと日本で就労を希望する外国人は、基本給の金額と残業の有無のみで応募して来た。日本で仕事ができるのなら、職種は何でも良かった。しかし最近は違う。彼らは以下の様な事で他の外国(韓国/台湾/中東など)を含めて就労国や企業を決めるようになった。彼らの関心度が高い順で記述すると以下のようになる。

① 基本給
② 残業の有無
③ 賞与の有無
④ 昇給、昇格の有無
⑤ 手当、福利厚生の内容(日本語手当、勤務評価手当、資格手当など)(保険、有給、家賃補助など)
⑥ 職種
⑦ 居住環境(寮/社宅/自分で探す)(備品:エアコン/冷蔵庫/洗濯機など)(1人部屋/一部屋何人)
⑧ 他に外国人、ベトナム人がいるかどうか(多少いる方が好まれるが、多数いるのは避ける傾向がある。)
⑨ 就労エリア(都道府県、最近は大都市圏を希望する傾向がある。)
⑩ ベトナムに一次帰国出来るだけの有給が取れるか?(これは、「あれば良い」程度だが)

ここで①②③に関連する参考資料として以下の表をご覧いただきたい。

上記は弊社のクライアントである日本企業がベトナム人に対して募集を出した結果、どのくらい需要を満たせたかをパーセントで表している。あくまでも全業種を通じて基本給と残業から見た状況に過ぎないが、これを見ると「普通の」ベトナム人を雇用するための人件費の最近のレンジが分る。

基本給が15万円以下で残業が無い企業に、もはや彼らは来てくれない。基本給が17万円であっても残業が無い企業だと難しい。色付けした条件になって、ようやく来てくれるようになるのだ。ここで我々は「外国人は募集すれば何時でも喜んで来る」「外国人を使ってやる」「外国人は安く雇用できる」と言った考えはもはや通用しなくなっている事を知るべきである。

今は「数ある国の中から日本を選び、うちの会社に来てくれてありがとう」「来てくれたおかげで人手不足が解消できた」と言う感謝の気持ちを以て接する事が重要なのである。今や「外国人は安く雇える」時代ではなくなったのだ。

今後ベトナム人を雇用する場合には以下のような項目を考慮すると良いだろう。相手任せにすることなく、自身で確認する事が重要である。

雇用側・支援側の確認事項

・求める業務に必要な在留資格を取得するために、的確な全ての資格条件を満たしているか否かの詳細な事前確認。(★★★難易度高)
・外国にいる対象者を来日させて雇用する場合には特に注意が必要。適切な現地の関係企業/組織/団体を見つけ出し提携する事が出来れば安心だが、「適切な」提携先を見つけ出す事は(★★★難易度高)なので特に注意が必要。
・労働条件を具体的に説明し、正確に理解させる。外国は契約社会なので、契約書に基づいて業務を推進する。
「正しく理解していない」「書面で言及していない/曖昧な部分がある」と大きなトラブルに繋がる。(★★難易度中)
・雇用側として、それぞれの在留資格を取得する各条件を満たした受け入れ体制を整えているかの事前確認(★★難易度中)
※ここまでは、スキルと経験値が必要なので、専門家に依頼するのがベター。

・日本独自のビジネス慣行などについて認識・理解させる。
⇒勤務時間の定義、年功序列、長期継続勤務、有給休暇の意味合い、残業に関する説明、保険/年金制度、労災、服装、化粧、モラルの基準など
・残業/休日出勤に対する外国人の意識や雇用方法を認識する。
⇒働き方改革、労働各法、労働基準監督署、出入国在留管理庁、対象となる外国人雇用に関する法令などを理解し、内容を把握する。

※上記各項に関する対応方法や解決方法などの詳細に付いては特に重要で、受け入れ側にも充分な準備と創意工夫が必要です。必要があれば直接ご説明いたします。お気軽にご連絡下さい。

4.コロナ後の動向予測

在留資格の区分けが明確に

コロナ禍で、ベトナム人の犯罪が急増していることは前述した通りなので、本項では再述しないが、最近、監理団体や受け入れ企業に対する当局の処遇開示が目に付くようになった。その理由として、2019年4月に「新たな外国人受け入れ制度(特定技能)がスタートしたが、これは当初の受入人数が想定通りに進んでいない事が大きく影響していると考えられる。

入国管理局が出入国在留管理庁として生まれ変わったことで、当局は在留外国人の在留資格に関する区分けを明確にする事に注力するようになった。特に留学生(勉学)、技能実習生(技能の習得)、そして特定技能(就労)の区分けである。留学生は勉強せよ、技能実習生は技能の習得に努めよ(だから最低賃金でも収入に拘るな)、仕事をしたい人は特定技能(就労ビザ)で来日しろと言う当局の考え方がこれで明確になった。

特に、コロナ以前の主流であった技能実習生に関する問題に対しては、受け入れ企業が目を付けられると事態は次のように進むようになった。紐付けで監理団体には当然調査が入る(これは今までも同じ)。

さてここからである。今はベトナムの送出し機関にまで調査が及ぶようになっているのだ。「送り出し機関は外国にあるのだから、日本の司法制度は及ばないだろう」などと思っていると大間違いである。

実際弊社も当局関係者から情報や意見を求められているし、諮問機関への参加の打診も受けている。日本から調査依頼が来るものだから、ベトナム政府当局も名前の出た送り出し機関を調査する。
まあ彼らは持ちつ持たれつだから、全ての送出し機関を調査する事はないだろうが、殆どの送出し機関が日本からの関連調査に対して敏感になっている。

このような事から考察するに、今後、技能実習制度が大きく見直される可能性が高い。受け入れ企業は言うまでもないが、万が一監理団体や関係者が違法行為に関わっているとなったら、組織と個人への処罰は必須である。当局はかなりの情報を入手済みのようだ。

宣伝ではないが、関心のある方は10月17日にNHKのETVで放映された「調査ドキュメント~外国人技能実習制度を負う~」をご覧になる事をお勧めする。NHKオンデマンドなら220円で視聴する事ができる。

ETV特集 「調査ドキュメント~外国人技能実習制度を追う~」

ご覧になれば分るが、技能実習制度の実情がここまで放映されているのだ。このような番組でも放映されていないことを、ここでは一つ情報を開示しておく。殆どの技能実習生の履歴書には履歴詐称がある。もちろん「出入国管理及び難民認定法」違反で処罰の対象になる。監理団体や受け入れ企業の方はくれぐれもお気を付けいただきたい。

終わりに

さて、今後の流れについて考察すると、上記で述べてきた経緯と、コロナ化で長期に渡って流れが止まっている状況が良いタイミングとなり、技能実習制度は大きく見直される事になるであろう。受け入れ企業や監理団体の再考に始まり、ベトナム送り出し機関にも影響が及ぶ。特にここ数年に創設した送出し機関には厳しい状況が続き、大手の老舗送り出し機関も2極化していくことが考えられる。

また、技能実習3号への移行は減少し、技能実習2号修了後には、特定技能への移行が増加する事が予想される。ベトナムでは送出し機関の淘汰が始まっており、少しずつではあるが、当局の姿勢も変わり始めている。

関係者におかれては、日々の動向を細かく確認し、先行して対応する事をお勧めする。

 

執筆者紹介

櫻井 良光(さくらい よしみつ)
VJVC LLC 代表執行役員

2006年よりベトナムに特化し、主に日本企業を対象にアドバイザリー業務を開始、
対応範囲は、現地法人設立、合弁会社設立、提携企業とのマッチング、M&A、資本参加、業務提携など多岐に渡る。
上記業務との関連性から人材分野に展開、現在はベトナムの事業法人、日本語学校や送出し機関などのアドバイザーも務めており、日本人が判り難いベトナムの法務や商慣習、実情などに精通。
独特の視点で日本の中小企業を中心に、上場企業から個人企業まで幅広く実践的にサポートする。

VJBC LLC:sakurai@vjbcllc.com


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